From the Source #04 青森県 ヤマサンりんご園 2026/03
冬の「眠り」と「準備」の季節

青森、津軽にあるヤマサン農園さん。りんごを送っていただいています。前回、収穫前の農園にお邪魔しました。(前回記事はこちらから)
季節は動き、秋から冬へ。雪が降り積もる中、生きものや木たちは静かに眠りに入る。冬のヤマサン農園さんのことやりんごのお話をお伺いしました。
白い季節
吐く息が白くほどけ、空から舞い降りる雪は、どれひとつとして同じ形を持たない結晶。
その無数の雪が静かに折り重なり、津軽の大地は今日も一面の白に包まれています。秋にご紹介したヤマサンりんご園も、すっかり冬の装い。
こな雪、つぶ雪、わた雪、みづ雪、かた雪、ざらめ雪、こほり雪
津軽に伝わる「七つの雪」。青森県北津軽郡生まれの文豪・太宰治は、小説『津軽』の冒頭で、そんな雪の表情を描き出しました。
雪の違いを見分け、雪と共に暮らしてきた津軽の人びと。
この土地の冬は、ただ厳しいだけではなく、暮らしや実りを静かに育む季節でもあります。
冬。眠る木に、手を入れる
降り積もった雪の上には、キジやアナグマ、キツネ、時折テンの足跡が。
姿は見えなくとも、確かにここで生きている気配が、白い大地にくっきりと刻まれています。
木に残されたりんごや、時間とともに渋みを失った柿の実は、
カラスのカーコやムクドリたちの大切な冬の食事。
人が収穫を終えたあとも、果実は森や生きものたちへと役目を引き継いでいきます。
厳しい津軽の冬を、たくましく生き抜く小さな命たち。
その営みを、今さんは決して邪魔することなく、ただ静かに、温かいまなざしで見守っています。
りんご畑のカー子ちゃん

晩秋から初冬、気温が7度を下回ると、りんごの木は葉を落とし、呼吸を抑えて休眠期に入ります。
その、静かに眠る時間のなかで行われるのが「剪定」です。
木が休眠しているこの時期に手を入れることで、養分を無駄にすることなく、次の季節へ力を蓄えさせることができます。
ヤマサンりんご園のある津軽では、多い年には積雪が130センチ前後に達します。
雪が深いと、剪定の際にほとんど梯子を使わずに作業できることもあるそうです。
雪をまとった枝から、大きなブラシでそっと雪を払い落とす今さんの姿は印象的です。
剪定とは、ただ枝を切る作業ではありません。
「樹が混んできて、枝と枝がぶつかって、だんだん窮屈になってくるんです。
そうなると、太い枝を思い切ってバッサリ切る。
これを残してしまうと、樹ばかりが高くなって、成枝に日が当たらなくなる。
本当に守りたいのは、細い成枝なんです。だから、太い枝は少ない方がいいんですよ」
木の様子を見ながら、次の姿を思い描く仕事。
枝を適度に間引き、日当たりと風通しを整え、木のエネルギーを良い実へと集中させるための、大切な工程です。

季節の歩調に合わせて
剪定作業は二月に入ると本格化し、三月が近づくにつれ、少しずつ気持ちが急いてくると今さんは言います。
雪の多い津軽では、外で作業できる日は限られているからです。
樹の様子は気になっても、思うように手を入れられない日が続くことも少なくありません。
容赦なく降る雪と、それでも刻々と変わっていく季節。
その狭間で、りんごの木の成長に合わせながら、今さんは黙々と手を動かします。
また、ある冬、今さんが強く印象に残ったのは若木の姿でした。
「『つがる』の若木で、主枝を高い位置から出している樹は、雪害がほとんど見られなかったんです」
一方で、主枝が低い位置から出ている木は、雪の重みをまともに受け、枝に大きな負担がかかっていました。
苗木の頃から、将来主枝になる側枝を見極め、低い位置の枝を落としておく。
そして、自分のへその高さあたりから主枝を出す。
「やっぱり、そうしておくべきだったなと。この冬の大雪から、あらためて学びました」
雪国のりんご栽培において、雪は避けることのできない存在です。
降る前からその姿を想像し、雪のない季節の作業のしやすさまで考えて、木のかたちを整えていく。
剪定は、人が木に命令する作業ではありません。
雪に耐えた木の姿を見て、次にどう導くかを考えること。
若木もまた、今さんとの対話のなかで、厳しい環境に適応する術を身につけていきます。

雪に覆われ、畑に立てない日が続いても、りんごの木は、止まることなく季節を受け取り続けています。目には見えなくとも、枝の内側では、次の春に向けた準備が静かに進んでいるのです。
私たちの手元に届くまで、脈々と積み重ねられてきた工夫と知恵。
冬は、静かに、しかし確かに次の季節へとつながる「準備」の時間なのです。
少しずつ雪が解け、幹のまわりから土が顔を出し始める頃。
農園には、かすかな春の気配が漂いはじめます。
次回は、春のりんご畑のお話です。またどうぞよろしくお願いいたします。
