山梨笛吹市で50年 瑞々しいぶどう作り
私たちが田村ぶどう店さんに伺ったのは6年前。2015年のぶどうの収穫時期でした。その時の記事をもとに加筆修正をして今回ご案内します。
山梨の美しい山々を背に、段々と広がるぶどう畑。細いくねくねとした道を進んでいくと、田村ぶどう店さんの畑がありました。
普段は畑の中に人をいれることをしていらっしゃらないのですが、快くご案内くださったのは田村さんのお嫁さん。
あまりぶどう畑をみる機会が少ない私たちですが、それでも田村さんのぶどう畑が普通の畑よりも美しく整っており、どこか凛とした空気を感じたことを覚えています。
おいしいぶどうってどんな条件が必要なの?
ぶどう作りに適している気候は、朝晩の寒暖差があり、日照時間が長いこと、降水量が少ないことがあげられます。夜の気温が低いと、昼間つくられた甘みの元であるでんぷんを貯めておくことができます。田村ぶとう店さんのある一ノ宮では、朝晩の寒暖差がしっかりとあり、日照時間も長いので、きちんときれいに色づいた甘くておいしいぶどうができるそうです。
こちらは余談ですが、笛吹市のご近所でワインで有名な勝沼というところがありますが、勝沼では、酸味の強いぶどうがとれるので、ワインに適しているのだそうです。
田村ぶどう店さんのぶどう作りの歴史
田村ぶどう店の始まりは田村さんのおじいちゃん。
JA笛吹市によると
【山梨の葡萄栽培の歴史は古く、一説によると、1,200年以上前から栽培されていたと言われており、高品質の品種が数多く栽培され、生産量は日本一。】
と記載があります。
明治時代は蚕栽培がさかんな土地でありました。おじいちゃんの祖父にあたる方が、お蚕さんをはじめました。織物の衰退とともに蚕はやめ、田んぼを始めますが、土地との相性があまり合わず、おじいちゃんの代でぶどうをはじめとした果物作りをはじめたそうです。とってもおいしいぶどうができたところから果樹栽培への切り替えを行い田村ぶどう店のぶどう作り50年の歴史が始まりました。
美しい畑の理由
目を奪われるような田村さんの美しいぶどう畑。「畑の位置、ぶどうの木の位置、葉っぱの数、全てがおいしいぶどうを作るために計算し尽くされたものなのですよ。」と奥様が畑の中を説明してくださいました。
さんさんと太陽の光が降り注ぎ、ぶどうの葉っぱの間からは、木漏れ日があふれ、風が山から降りてきます。木と木の間の風通しを良くすることによって、虫もつきにくくなるんだそうです。
おじいちゃんのぶどう作り
全ての粒が美しく身が大粒で味がしっかりと濃いのが特徴の田村さんのぶどう。おじいちゃんは、「茶つぼの形を目指すんだよ。肩がいかっていて、おしりの方が細くなる、3・3・2・2・1というぶどう界の黄金比率がある」
しかし、ひと粒ぬいてしまうとバラバラしてきてしまうので、1番大切なのは、日々のお手入れをきちんとすることが必要なのです(とくに赤い実のものがデリケートなんだそうです。)
「目方を少なくすると、ぶどうの肉質がかわり、味が濃く、おいしいものになる。とにかく、天候が1番たいへん。簡単なようで、難しい。」
なんと深い・・・ぶどうの美しいフォルムと田村さんのぶどうをひとつぶ食べれば納得します。
美しい形を作り出すのは、やはり職人技で、できあがりの形を想像しながら剪定します。
二人三脚で始まるぶどう作り
おじいちゃんとおばあちゃんがふたりで一からはじめたぶどう農園。
丁寧で行き届いた美しい畑は、私たちには少し低いくらい。
お話を聞いてみると、背の低いおばあちゃんに合わせたぶどうの棚の高さなんだそう。すこし恥ずかしそうに微笑むおばあちゃんの顔とご夫婦二人三脚で歩まれてきた姿が畑にしっかりと映っていました。
そして息子さんに少しずつ引き継がれ、こだわりのぶどう作りを田村さんご一家で守っています。
本当に伝えていきたい味
田村さんは、2~30種類のぶどうを作っています。
最近では甘さが多く、シャインマスカットのように種の無いぶどうの人気が高いですが、種のあるぶどうは、種のないぶどうに比べて、コクがある味わいになるそうです。
“甘さ”と“酸味”のとれたバランスのぶどうが理想的なぶどうの姿じゃないかなあ、とおじいちゃんはぶどうをつまみながら話していました。
山梨県には、甲州ぶどうという品種のぶどうがあるそう。
「私たちも、これ(甲州ぶどう)は、好んで食べるね。口に含んだ時のぶどうの味わいのバランス。皮を出して、種はそのまま食べちゃうの。」
少し遅い時期のぶどうだそうで、鮮度が大切なのでなかなか市場に出回らない品種だそうです。
6年経って思うこと
冒頭にも書きましたが、こちらの記事は6年前に伺った時のものです。今でも家族への愛情が美しい畑や作られるぶどうそのものに現れていたことを感じて、感動したことを思い出します。
そして最後におじいちゃんやおばあちゃんが語ってくれたぶどうの話と、種なしのぶどうがどのように作られるのかを見せてもらった光景が忘れられません。
食べる人、買う側の責任みたいなものを感じました。
ぶどうにはたくさんの品種があって、香りや酸味、味わいの違いを勉強させてもらいました。
他のフルーツでも言えることですが、甘さや食べやすさが重視されやすい中で、皮付きで食べにくくても種ありのぶどうも十分魅力的なことを伝えたいと思っています。
もちろん私も種無しで皮まで食べられるぶどうも大好きで頂きます。
でも6年前にふっと湧いた気持ちを大切にして、まだできていないチャレンジをいつかできたらいいなあと思っています。