Gathering Waters : REPORT_2025年10月

パドゥドゥが大切にしてきている店舗の隣にある私たちのちいさな森。機能としては、駐車場や庭の役割を担ってくれています。これから雨を受けとめる庭として少しずつ生まれ変わる予定です。その具体的な取り組みをパドゥドゥスタッフの目線でレポートさせていただければと思っています。
この秋パドゥドゥ店舗とともにお庭の一部も手を入れていただきました。パドゥドゥの庭の再生は来島さんにご紹介していただいた、木び土(きびと)の稲村純一さんにお願いしています。稲村さんは「土中環境」の高田さんのもとでずっと修行をされていた方。
昨年からパドゥドゥの庭木の剪定をお願いしていました。稲村さんに手を入れていただいた後の庭は、風の通り道がよくわかります。木たちが美しく揺れるのです。技術の世界であり、美意識の世界だなあ・・・と毎回感激しています。
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乾いた土壌の現状と背景

パドゥドゥの庭の土は、植栽を抜くと根からサラサラと砂のようにこぼれ落ち、根がむき出しになるほど乾いていました。
この土地はもともと駐車場として使われていた硬い地盤の上にあり、さらに周囲を建物に囲まれているため、湿り気が保たれにくい環境。これはパドゥドゥだけに起こる現象ではなく、街路樹など都市における木々が置かれている環境でもあるので、きっと困っている人は多いと思います。
水やりをしても全然染み込んでいかないので、まめに水やりをしなければならないことや、すぐに枯れてしまうなど。土もかわいているので風が吹くと埃として舞っていったり、本来であれば、瑞々しさを感じられるはずの木々から充分にその恩恵を享受できていないような気がします。
今回、引き抜いた植物の根はいずれも短く、細い根ばかり。これは地中に保水力がなく、水やりや雨によるわずかな表面的な水分しか吸収できていなかった証でもあります。
この条件の中で、どんなことをしたら「呼吸する土」を取り戻し、木々も私たちも嬉しい場所になるのか 、、、それが再生の出発点となりました。
苔がつなぐ地上と地中

今回、新しいお店をリニューアルするにあたって、「朝が似合う」というコンセプトで内装デザインをお願いしました。パドゥドゥの朝は、本当に気持ちが良くて、窓越しに映る季節の緑が目に入るたびに、気分が上向くような時間になるのです。私たちだけではなく、お客様にも楽しんでいただきたいという想いがあって、店舗に近い部分から始めることになりました。

店舗近くにある欅の木は、お店の創業時からあるので樹齢40年以上。木の根元に苔を植える作業が行われました。
土が呼吸できるようにするための一つとして、重要な役割を果たしてくれるのが、「炭」と「穴」。

木の根元に向かってなだらかな傾斜をつけ、その上にくん炭(籾殻の炭)と細かく砕いた炭を1:1の割合で重ねます。

さらに、その層の上からドライバーのような棒を30cmほど差し込み、ぐりぐりと回して穴を開け、そこにもくん炭を入れていきます。
くん炭や炭は自然素材でありながらガラス質に近く、分解されにくい性質を持っています。

また、炭の表面には無数の微細な穴があり、そこに微生物が定着することで、乾いた土の中に“半永久的な微生物の住処”が生まれます。

こうして微生物が息づくことで、土壌は少しずつ保湿性を取り戻し、やがて苔や植物が根づくための豊かな基盤へと変化していきます。その上に元の土を戻し、杉苔と灰苔を植え込みます。苔は環境が整えば自然に定着するもので、水やりには塩素を抜いた真水が理想的です。
もし真水が手に入らない場合は、手でくるくると軽くかき混ぜるだけでも塩素が和らぐといわれています。

枝と根の関係

次に行われたのは、木の剪定です。
庭師の稲村さんは枝を揺らし、その重さを確かめながら不要な部分を見極めていきます。
太く枝が密集した箇所(重い枝)は空気の流れを妨げ、光を遮ってしまいます。
重い枝を切り落とし、下や近くにある細い枝を残して育てることで、木は再び風や光を受け入れやすくなります。
風で揺れる重い枝は幹を不安定にし、そのため幹の揺れを防ぐため直根(ちょっこん)を過剰に発達させてしまいます。
直根が強くなりすぎると、水分をよく吸収する細根の生育が阻まれるため、剪定は根の健康にも関わる重要な作業です。
また太い枝を落とすと直根が反応して再び成長しようとするため、細い枝先も軽く刈り込みます。

そうすることで、今度は細根にも刺激が伝わり、発達を促してくれるのです。地上と地中は、まるで合わせ鏡のように繋がっています。
そうしたバランスを取り戻すために、繊細で丁寧な手入れが続けられます。
自然の樹形を目指して

森の中の木は、周囲の植物と共存しながら上へと伸びていきます。
一方、都市の木は回りに遮るものがなく、自らの幹を日差しから守るために枝を横へ広げます。
同じ種類の木でも、環境によってその姿は大きく異なります。
稲村さんの剪定は、こうした環境の違いを理解した上で、「自然の山や森にある樹形」に近づけることを目指しています。
重くなった枝を切り、代わりに若い枝を残す。
本来は一度に形を整えるのではなく、日々少しずつ手を入れていく。
それは木への負担を減らし、根のバランスを守る優しい方法だとおっしゃいます。
稲村さんは、木が切られてもまた伸び、消失と再生を繰り返しながら
自らの形を保っていく姿を理想としています。
その手入れは、単なる整形ではなく、生き物としての木と対話しながら、
時間をかけて木自身が“更新”していく過程を支える行為でもあります。
土と木、そして町の呼吸
人が暮らす町の中でも、小さくても健やかな土地が点在していれば、
それぞれの地面が影響し合い、より豊かな環境を保ちやすくなります。
それは、くん炭の穴に住みついた微生物が全体の土を豊かにしていく現象に似ています。
ひとつの庭や一本の木が生き生きとすることは、その場で完結するものではありません。
地下の見えない層を通じて他の土地にも作用し、町全体の呼吸を穏やかにしていくのです。
雨を受けとめ、自ら循環していく庭づくりのプロセスを、ぜひWEB連載でご覧ください。
2025.10.24|山本彌
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山本 彌 Yamamoto Iyo
多摩美術大学 美術学部 生産デザイン学科 テキスタイル専攻 卒業
植物菌類の生き方を通して生命とは何かを問い羊毛や布など繊維素材でオブジェインスタレーションで表現する造形作家。
さいたま市在住
主な展示略歴
2016年 横須賀美術館「自然と美術の標本展」参加
2018年Gallery 樟楠 二人展『−鳴音−春の森へ』
2022年takase『神来の興』参加
プラザノース二人展『うたかたの光り』
2023年さいたま国際芸術祭2023(SACP*)参加
2025年 ギャルリーWa2個展『脈脈』