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From the Source #06 高知県 月海製塩 [第二回]

パドゥドゥで使う大切な食材たち。その背景には尊敬する作り手の皆さんとその土地がもつ美しい風景と積み重ねた文化があります。私たちが心動かされる季節のゆらぎや、やさしい眼差し。繋がれている技術。

FROMTHE SOURCEで少しずつお伝えできればと思います。

#6は高知県の黒潮町で、完全天日塩を作っていらっしゃる月海製塩さん。2回にわたってお伝えさせていただく回ですが、第一弾は、森から始まる塩作り。“塩になる前”のお話をさせていただきました。(前回記事は、こちらからお読みいただけます)

第二弾は、いよいよ塩づくりのお話です。

心から塩づくりを楽しんでいらっしゃる中谷さん。お話をしていると、職人としての確かな技術や強いこだわりとともに、自然の変化を細やかに受け止め、それを人に伝わる形へと整えていく、独特の感性を感じます。

自然をそのまま受け入れながら、必要なところにだけ人の手を加える。

今回は、そんな中谷さんの感性と技術が重なる、塩づくりの現場へお邪魔しました。


月と海水

月海製塩の中谷さんがつくるお塩は、「満月の塩」と「新月の塩」の2種類。
その名の通り、満月と新月、それぞれの大潮の日に海水を汲み上げます。

海の満ち引きには、月や太陽の引力が深く関係しています。なかでも月の影響は大きく、新月や満月の頃には月と太陽の引力が重なることで、満潮と干潮の差が特に大きくなります。これが「大潮」です。

海水を汲み上げるのは、四国の広大な森林から栄養を運ぶ清流・四万十川が流れ込む土佐湾。沖合約1.8キロ、水深10メートルの地点まで、中谷さん自身が舟で向かい、海水を汲み上げます。

同じ場所で採る海水であっても、その状態は一定ではありません。

満月の海水は、複雑で奥行きのある味わい。
新月の海水は、やわらかく、静かな味わい。

さらに、水温や海の状態は季節によって変わるため、同じ満月、同じ新月であっても、海水の味わいはその都度異なります。

月、季節、水温、海の状態。
その日の海を見極め、海水の違いを繊細に感じとり、収穫から丁寧に行うところから中谷さんの塩づくりは始まります。



海水から結晶へ

月海製塩さんの塩は、太陽と風だけで海水を“塩”へ育てる“完全天日塩”。一般的な塩づくりでは火の力を借りますが、完全天日塩は、自然の時間をそのまま映しているようなお塩です。

製塩所では、新月の海水、満月の海水、それぞれのハウスがあり、海水が入った木枠が美しく並びます。木枠の中は、汲み上げた海水が満ち、太陽の力を受けながら、少しずつ水分を蒸発させ、長い時間をかけて結晶へと変化していきます。塩が出来上がるまでは、季節によって3ヶ月以上かかります。

季節ごとに温度や湿度の変化を受けながら、じっくりと結晶へと姿を変えていく塩たち。

暖かな季節には結晶化が早く進み、寒さが厳しい時には海水が凍ってしまうこともある。季節が変われば、塩づくりの条件も変わります。

だからこそ、決まった工程をただ繰り返すのではなく、その日の温度や湿度、塩の状態を見ながら、一つひとつ判断していく。

日々変わる自然の条件に合わせて、理想とする結晶と味わいへ近づけていきます。


自然を読む仕事

中谷さんのお塩は、黒潮らしい力強さがあり、それでいて角がなく、じんわりと口の中に広がっていく。私たちが特に惹かれているのは、最後の余韻である「澄んだ後味」。

海水の中には、ナトリウムだけでなく、マグネシウム、カリウムなど、さまざまなミネラル成分が含まれています。それらが、塩味、酸味、苦味などになって、塩の味わいを形作ります。

それぞれ結晶化するタイミングが異なるので、中谷さんは、毎日変化する塩の状態を見ながら、そのバランスを細かく見極めて繊細に調整していきます。

美しい海水を求めて自ら舟を出し、沖合まで採水に向かうこと。
汲み上げた海水から不純物をできる限り取り除くこと。
結晶化していく成分の変化を見ながら、必要なところにだけ手を加えること。

ひとつひとつの工程を積み重ねることで、力強くも、澄んだ味わいの塩が生まれます。

そして、中谷さんの作るお塩は、見た目も特に美しい。一粒一粒の結晶が光を受け、きらめくような透明感が際立ちます。日本の海水からつくる塩は結晶が白く曇りやすく、透明感のある結晶に仕上げるには、高い技術が必要なのだそうです。

自然に任せるだけではなく、変化を観察し、必要な時に手を加える。
けれど、決して作り込みすぎない。その繰り返しの中で、中谷さんは理想とする味わいを探り続けていらっしゃいます。

私たちが、日々当たり前のように使っているお塩。

けれど月海製塩さんの塩づくりに触れると、そのひと粒の中に大きな循環があることに気づかされます。

山から流れた水が海へそそがれ、月の引力によって潮が動き、海水は長い時間をかけて結晶へと変わっていく。

遠いもののように感じている月の動きも、実際には海や塩の味わいに影響を与え、私たちの日々の暮らしへとつながっています。


“新月の塩”との出会いから生まれた、“Essence”

パドゥドゥのお菓子作りにも、とても大切な要素である塩。月海製塩さんのお塩は、まろやかに広がる塩味で、自然と馴染み、他の食材を穏やかに引き立ててくれる存在です。パドゥドゥでは主に「新月の塩」を使わせていただいています。

塩はお菓子全体の0.5〜1%ほどしか使いません。
そのわずかな存在が、味わいを引き締め、素材の魅力を引き出します

6月に発売したシグニチャーのクッキー缶である‘’Essence‘。

Essenceに入っている新月の塩サブレは、口に入れた瞬間の塩味の力強さと、クッキーのほどける食感とともに、じんわりと広がる塩の余韻が感じられ、新月の塩の魅力をよりお楽しみいただけます。

パドゥドゥで使わせていただく食材は、季節や年によって、その味わいが少しずつ移ろうものばかりです。

その中でも、月海製塩さんの塩に触れるほどに驚かされたのが、その「ゆらぎ」の大きさでした。

同じ海から生まれる塩でありながら、季節が変わるとはっきりと味が違う。

塩もまた、自然の変化をそのまま映す、とてもゆらぎのある食材なのだと感じます。

私たちが黒潮町に通うようになって、5年目になります。

夏は、うだるような暑さと、じりじりと照りつける強い日差し。陽が落ちると夜風が抜け、虫たちが唄い出し、空には一面の星が広がります。

冬の入野海岸には、芯まで冷えるような風が吹き抜ける。目の前に広がるのは、吸い込まれそうなほど静かで、深い藍色の海。

そんな黒潮町の季節の移ろいが、塩にも確かに表れています。

夏の塩は、力強く、輪郭のはっきりとした味わい。冬の塩は、どこか静けさを感じる味わい。

見た目には大きく変わらない一粒の塩にも、味わいの強さや余韻、色、結晶のきらめきに、その時々の違いが現れます。

中谷さんの塩と向き合うようになって、私たちは、目には見えなくても自然は絶えず変化していることを、以前よりも強く感じるようになりました。

海は変わらず、そこにあるように見える。けれど、その中身は一日として同じではない。


私たちがつくるEssenceも、季節によって味を変えようとはしません。

Essenceは季節を変えない。

季節が、Essenceを変えていく。

 

中谷さん、お忙しい中ありがとうございました。また違う季節に。



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